暁がきらめく場所
NO.04 魔力者
なぜ、お前達は僕を支配するのか
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 蒼水庭園を後にしたアティーファは、そのまま皇城の中庭を早足で目指していた。途中「なにを怖い顔をしている?」と背後から声を掛けられて、慌てて立ち止まる。
「カチェイ」
 よ、と軽く彼女の兄代わりの公子は片手をあげた。少し遅れた位置に、もう一人の公子の姿がある。
「アティーファ、幾らいつもと違う髪型で落ち着かないからって、歩きながら解くなよ。ぐしゃぐしゃだぞ」
「あーっ」
 指摘されて、アティーファは慌てて髪を手櫛で整える。それから立ち止まる二人の元に駆けよって、上目使いで兄たちを見つめた。
「私、怖い顔をしていた?」
「ああ。めちゃくちゃな」
「思ったことが全部顔に出てるなんて、嫌だな」
 アティーファが拗ねた声をあげるので、カチェイは苦笑して妹代わりの少女の頭を撫でながら、フォローを求めて親友の顔を見やる。
 アトゥールは軽く笑った。
「私達はアティーファの反応には、いつも気を付けているからね。多分、他の者達はなにも思わなかったと思うよ」
「――マルチナ……不審に思わなかったかな」
「それは大丈夫だと思うよ。――それに、マルチナ姫はリーレンに目を奪われていたようだし」
「リーレンに?」
「多分ね。理由も――なんとなく分かる気がするのだけれど」
 含みのある言葉を囁いて、アトゥールは横目で親友を見やる。気道をつぶされたような謎の声をあげて、カチェイが逃げるように天を仰いだ。
「理由って……」
「分からなかったのなら、分からなくって良いと思うけれど。それよりマルチナ姫のことだけれど、アティーファは何を奇妙だと感じた?」
「アトゥールも、変だって思った?」
 問いに答えずに、逆に質問する。
 長い睫毛の下にある目を僅かに伏せると、アトゥールは「幾つかはね」と言って腕を組んだ。
「マルチナ姫の様子を近くで観察していたわけではないけれど、謁見の間で見た彼女には、意志というものを感じなかったな。けれど先程の彼女には、それが見えた」
「うん。――それは、私も思うんだ。さっきまでは、操り人形みたいだって思っていたんだ。なのに、今は違う。それに」
「それに?」
 天井を向いていたカチェイが、アティーファに視線を戻す。こくりと肯くと、少女は二人を真剣な眼差しで見つめた。
「操られてるみたいだ、と思う他に、彼女が彼女であるんだろうか?って思ってしまう。上手く言えないのだけれど」
「彼女が、彼女ではない?」
「違うな。彼女は彼女なんだ。でも、あのマルチナが、ザノスヴィア王国の一の姫であるとは思えないんだ。そう――彼女からは、王家の人間の気配が全くしない」
 滑稽なことを言っている自覚があるのか、アティーファの顔は真剣ではあるものの、僅かな照れが感じられる。
 アトゥールは考え込むような目をした後、軽く手を振った。
「彼女が王家の人間でないのなら、替え玉であることを疑うべきだろうけれど。その可能性は低い気がするね。リィスアーダ姫は、幼少時から絶大な人気を誇ってきたんだ。かの国の民で、リィスアーダ姫の姿かたちを知らぬ者はいないとまで言われている。偽者を使うなら、リィスアーダ姫を国民の目に触れないようにするだろうけれど、彼女は堂々と旅の間姿を見せている。その上、乳母まで伴ってきているからね」
「分かってる。だから、偽者が来てるって思ってるわけじゃないんだ。もっと嫌な感じ。そう、例えば、本人なのに、本人じゃなくなってるみたいな」
 想像に怯えたように身震いをする。二人の公子は顔を見合わせて、確認するように肯きあった。
「エイデガル皇家の直系は、ずばぬけて勘が鋭いからな。俺とアトゥールで何かないか調べてみるよ」
「本当?」
「私達がアティーファの言葉を無碍にするわけがないだろう? ザノスヴィア王国に関連するここ五年の出来事をまとめてみることにするよ」
 妹に甘い兄の顔で笑うと、アトゥールは長い衣を翻して立ち去っていく。「少し安心した」とカチェイに囁いたところで、はっと皇女は体をこわばらせた。
 何かが近くに迫ってきている。静かに、けれど確実にだ。
 アティーファはくるりと振り向くと、緊張を解いて、呆れの入った明るい声を飛ばした。
「凛毅! また、お前は私を驚かせようとして!」
 快活な少女の声に合わせて、凛毅と呼ばれたものが跳躍する。しなやかな体と、光る二つの瞳。獰猛さと優雅さを同時に宿す山猫だった。
「まったく、本当に驚かせるのが好きなんだから!」
 呆れた声の皇女に甘えて、凛毅は鼻づらをアティーファの足に押しつける。腰をおろして背を撫でてやった。
「動物の利点をめいいっぱい活用して、マルチナの心を和ませて差し上げるんだ」
 大真面目にアティーファが言うと、無理を言うなと猛獣はそっぽを向く。けれど皇女がいつもより長く、毛皮を撫でてくれる事に気を良くして、いきなり優雅に歩き出した。
 だんまりを決め込んでいたカチェイがうめいた。
「アティーファ。凛毅はまずいだろう。いくら愛玩動物用――っていうか土産用に育てられて来たとはいえ、あれは猛獣だぞ。本来は肉食獣だぞ」
「うん。凛毅の生まれた遠い国では、山猫の被害がひどく多いってミレナ公国のロキシィおじさまが言ってた。それでも山猫を捕らえて子をペットにして売っちゃえ!って考えるのは凄い国だよね」
「うんうん。凄いよな。だからな、アティーファ。猛獣認定されている獣を、他の姫君にけしかけたりするな」
 カチェイの言葉に、アティーファが心底不思議そうな顔で首を傾げる。他国を放浪する癖のあるミレナ公国の公王ロキシィが土産にとおくって来た山猫の凛毅が、アティーファの中で猛獣指定がはずれていることに気付いて、アデル公子は溜息を付いた。
「説得不可能だ……」
「だって、凛毅しかおとなしくしてくれないし」
 カチェイの溜息をどう受け取ったのか、少々ずれた返事をアティーファがする。カチェイはもう何も言わず、マルチナが失神しませんようにと心の中で祈るだけに留めて、連れだって歩き出した。
 辿りついた蒼水庭園の扉を開けると、先に凛毅を中にいれて、アティーファは客人を探して視線をめぐらせた。
 小さな邸宅の庭先におかれたテーブルと椅子に、リーレンとマルチナが席に付いている。エミナはケーキを切り分けている所だった。
 アティーファの戻りを、いつだって一番待っているリーレンが顔をあげ、笑顔を浮かべようとする。寸前、駆け寄ってくる黒い影に凍りついた。
「――え!? ほ、本当に凛毅を……ちょ、ちょっと、ああっ!」
 言葉にならない声をあげる。リーレンの態度に首を傾げたマルチナが、彼が凝視する先を確認しようと振り向いた。
「ああっ! 振り向いては!!」
 リーレンが叫ぶ中、マルチナの目が見開かれる。
 優雅に、けれど見る者によれば恐怖を与えるだろう太い四肢を動かして、山猫は王女に近づいていた。
 マルチナの目がさらに見開かれていく。近づいて来る獣が本物であるのか、夢ではないのかを見極めるように。そしてゆっくりと、唇を開いた。
「か……可愛いっ!」
「はあ!?」
 リーレンとカチェイが仲良く間の抜けた声を上げた。一人アティーファが笑顔になる。
「ほら、やっぱり大成功だった。凛毅は女の子が大好きだから、マルチナをみたらきっと喜ぶと思ったんだよ」
 満足そうなアティーファの言葉を、呆気に取られたままの顔で、カチェイとリーレンは見守る。マルチナといえば、赤い裳裾をはためかせて走ると、迷いもなく山猫に抱きついた。
「可愛い」
 うっとりとした声をあげるマルチナに甘えて、凛毅は喉を鳴らせて王女にすりよる。
「マルチナって、動物が好きなんだ」
「ええ。ええ。大好き。動物は可愛いわ。それにお花も、空にかかる虹も、秋にゆれる稲穂の色も、みんな好きよ」
 肉食獣と自然を同じ基準で”好き”と断言するマルチナに、カチェイはやれやれと首を振る。
「姫さまって生き物は、大抵ちょっと変わってるところがある奴等なのかもな」
「姫君よりも、公子のほうがよほど変わった生き物だと」
「……リーレン」
「なんでもありません」
「全く。それにしてもだ」
 深い息を吐き出して、カチェイはさりげなくマルチナから視線をはずした。男を魅了して狂わせるような妖艶さを持つマルチナをこれ以上見つめていると、虜にされてしまいそうな恐れを感じたのだ。
 カチェイの態度にリーレンは不思議そうな顔をする。
「お前は本当にアティーファ一筋だな」
「はい。――。……わぁ!! 何をいきなりおっしゃるんですか!」
「いけしゃあしゃあと肯定してから焦るなよ。ま、俺はお前を応援してやろう。まさかあんな姫君を前にしても動じないなんてなぁ。そういやぁアトゥールの奴もまったく動じてなかったか」
 俺だけかよ、とぼやいて、カチェイはリーレンに背を向けて軽く手を振った。
「公子?」
「また来るよ。アトゥールの奴を手伝ってくるさ」
「あ、はい」
 リーレンの方を見ることもなく、立ち去っていく。
 丁度お茶のお変わりを持って邸宅から出てきた侍女のエミナは、凛毅を交えて遊ぶ麗しい姫君たちと、不思議そうに佇むリーレン、そしてかたくなな背を向けて去っていくカチェイを見つけて息を落とした。
「カチェイ公子も、普通の殿方ですね」
「――エミナ?」
 さらに不思議そうな顔をしてリーレンが振り向く。有能な侍女は笑みを浮かべて、全員でお茶にしましょう、と言った。
 
 


 はるかなる天を炎が焦がし、吐きだされたどす黒い不吉な煙が、辺りを覆い尽くしていた。
 清らかであった小川は腐臭を放ち、実りの大地は腐敗物に埋められている。蠢いているのは、白く隠微な虫たちだ。
 音。
 硬い靴底で、なにかをこそぐ音が響く。
 腐肉に群がる虫達を冒涜する行為。虫たちは一瞬離れると、波が返すようにざわりと戻ってくる。
 虫がそろりと靴を這った。それはすぐに数を増やし、やがて素足を蹂躪してゆく。
 腐乱臭を放たぬ唯一の生者が、そこに佇んでいた。
 佇むのは彼の村。炎に舐められて破壊された場所だ。死体が折り重なって炭化し、焼け残った部分は腐敗していく。
 惨劇から七日間。彼はひたすらに佇んでいた。
 瞳は深淵を宿す清廉な碧空の色。
 髪は蒼みがかった黒色で、不揃いの髪は風のたびに揺れる。
 蹴る。
 それを蹴って、弛緩した汚物につま先をめりこませ、淫猥でひそやかな音を奏でる。
「なぜ」
 うつろな声で、少年は囁いた。
「腐敗し、見苦しい物体に変じてまで、お前達は僕を支配するのか」
 また蹴る。
「死者の望みによって命を縛られた人間は、生者と呼ばれる存在なのか?」
 陰惨な言葉を紡ぐ声音には、幼さがあった。
「ザノスヴィア王国とエイデガル皇国。二つの王国に興味などはない。国の在りようなど」
 また強く蹴った。
 女の骸。かつて彼を腕に抱き、子守り歌がわりに呪いを紡いだ母親のなれの果て。
 幾重にも昇る葬送の炎からも隔離された、恐ろしい静寂の中で、彼は静かに笑い続け、ふと踵をかえした。
 左手を軽く握りしめる。炎が突如勢いをまし、彼の元へと炎の舌を伸ばした。
「名残など、消滅するべきだよ」
 巻き上がる気流に声は飲まれ、高く天へと吸い込まれていく。
 それから数日後、月が満ちた。
 常と何一つ変わらぬ夜。
 煌々と輝く満月が、白き石橋アポロスを照らしだし、人々を抱きこんで眠りに誘う。
 ――音。
 聴覚では察知し得ない、脳に響く旋律。生物を眠りへと誘う蠱惑な調べだ。
「全ては脆く、愚かだ」
 眠りに落ちた静寂の中、ひっそりとした声だけが、響いて消えた。



 翼を広げて、隼は碧空を舞う。
 豊かに広がる大地を眼下に、雄々しい翼で飛翔していた。
 隼の下には二本の川がある。古代の神の名を冠する川で、一つは荒ぶる魂を宿すエウリス、もう一つが命を運ぶウリエヌと呼ばれていた。
 ウリエヌは内陸へと続いている。隼は河に添って翼を広げていた。
 先には神秘の湖アウケルンが広がる。碧玉とだけ呼ばれることもある巨大な湖の中ほどには、荘厳な白亜の城、エイデガル皇国城が佇んでいた。
 エイデガル皇国城へと導かれるのは、ウリエヌだけではない。天領地を挟んで広がる五公国の版図を繋げる、五つの運河も流れ込んでいた。水路によって繋がる国、それが水軍国家エイデガルの姿だ。
 白亜の皇城を目前に、隼が高く鳴いた。
 長旅を続けた鳥が鳴く少し前、白亜の城に住まう皇女アティーファは、自室にティオス公子アトゥールの来訪を受けていた。手には幾枚かの紙がある。隣国の王女マルチナを訝しんだアティーファの為に、アトゥールが調べ上げたザノスヴィアに関する報告書だ。
「ザノスヴィアのノイル王が、王直属の親衛隊を動かしているのは確かだね。しかも目的が不明で、ひどく不審ときている。出撃するのは毎回十人程度で、火薬や矢などを使い切った状態で帰還しているから、戦闘を行っているのは確かだと思うよ」
 柔らかな容貌によく馴染む、テノールの声がアティーファの耳朶を打つ。皇女はううんと首をひねり、困った様子を隠さずに頬杖を付いた。
「なんだか、中途半端な気がする。――アトゥールはどう思う?」
「そうだね。腑に落ちないなと思うよ。諜報活動を行っているにしては動きが大胆すぎる。けれど侵略を企てるには、動かす規模が小さすぎる。訓練と考えると、今度は武器の消耗が激しすぎるしね」
「消耗が激しい?」
「城下の刀鍛冶を調べてみたところ、親衛隊は帰還後、全員刀を鍛えなおさせているんだ。自分で治せないほどの刃こぼれが生じたわけだよね。ならば、白兵戦が行われたと考えるのが妥当なところだろう」
「あ、そうか!」
 アトゥールの柔らかな言葉に、アティーファは目を見張る。続けて難しい顔になった。
「武力を行使しているなら、血が流れてるってことだよね? でも、そういう話、耳に挟んだことないな。たとえザノスヴィアが緘口令を布いていたとしても、血なまぐさいことになっているのなら、流民が増えて当然なのに」
「亡命者の数は、一月に約五名。現段階で数に変化は特にないね」
「どういうことなんだろう?」
「あと、補足するけれど。リィスアーダ姫自身のことだけどね。やはり彼女は本物であるとしか答えられない。出生当時から乳母を務めている女は解雇されていないし、古参の者が退けられた様子もない。エイデガル皇国に出立する際には、堂々と国民の前に姿を現している。偽物ならば、おかすはずのない危険だと思うよ」
「なんだか、ないない尽くしなんだな。分かってるのは、たしかにザノスヴィア王は武力を行使し、どこかで血なまぐさい事が起きてる。マルチナには違和感がある。変だなって思う事実しか分からない」
 拗ねたように唇を尖らせて、アティーファは勢いよく立ち上がり、窓辺によった。開け放った窓から差し込む光に亜麻色の髪を流し、きらめく光に目を細める。
「なんだか答えが出ないことを考えてると、息が詰まってしまう。アトゥール、いっそのこと、城下に遊びにいかないか?」
 悪戯っぽくアティーファが笑う。
「アティーファが望むなら、連れ出すのもやぶさかではないけれどね。二人だけで抜けだすと、あとでカチェイとリーレンがうるさそうだよ」
 おかしそうに応えて、兄代わりを務める美麗な公子はアティーファの側に寄った。碧玉の湖アウケルンから流れ込む風が、二人の長い髪を強く揺らせる。
「あっ!」
 風が不意に力を増した。
 気を抜いていたアティーファの手から、風に浚われて紙が外に躍り出る。取り戻そうと体を乗り出し、アティーファは蒼空に刻まれた鳥の姿を認めた。
「隼?」
 声に応えるかのごとく、高い鳥の声が響く。
「伝書令に向かってる!」
 アティーファは隼の進路に声を上げた。即座に窓枠に両手をついて外に飛び出す。彼女の部屋は城の最上部に位置しており、落下すれば命はない。彼女が目指すのは地上ではなく、城の外壁面にめぐらされた”突起”だった。
 外壁を巡る突起は、大人の男の肩幅ほどの広さを持つ。不思議な飾りに見えるそれは、正しくは道だった。平和な今は知らぬ者が多いが、実際は緊急時に城と塔などを繋ぐ道となり、投石器を配置する場所ともなる。
 身軽な皇女を見送るアトゥールに動揺はなかった。アティーファが城の突起を普段から利用して、侍女のエミナやリーレンを煙に巻いていたことを知っていたのだ。
「このまま見過ごすわけにもいかないかな」
 アトゥールもまた外に飛び出して少女の後を追う。
 高く響く鳥の鳴き声は、伝書令のある物見の塔に近づくにつれて大きくなっていく。 
 アティーファは背後にアトゥールの気配を感じながら、物見の塔の窓から内部に滑り込み、屋上に飛び出した。屋上にある伝書令には、伝令をつたえる鳥たちが舞い込んでくる。物見台も兼ねていて、危急を告げる狼煙が最もよく見える場所でもあった。
「誰もいない!?」
 無人の事実に驚いて、アティーファは怒りを示した。エイデガルは大国であり、危急の事態が発生する確立は低い。それでも知らせを受ける伝書令には常時二人が詰める手筈になっていた。無人なのは、当番が勝手に持ち場を離れて休んでいる為だろう。
 アティーファは減給決定と呟きつつ、舞い降りられずに空で旋回する隼に口笛を吹いた。鳥の爪をふせぐ防具をつけて、腕を高く空に伸ばす。強く羽ばたいた後、隼は舞い降りてきた。
「疲れたろう? 悪かった」
 人に対するように真剣に謝って、アティーファは水と餌を専用の箱にいれてやる。隼が出されたものをついばむ辺りで、再び人の気配がした。振り向けば、息一つきらしていないアトゥールの姿が入る。
「天馬の紋章? レキス公国からの使者のようだね」
 言われて、隼の足に括られた天馬をあしらった書簡入れに気付く。羽を休める隼を刺激せぬように書簡入れをはずし、掌の上で逆さにした。
 燦然と輝く陽光が、瞬時に集められて閃光がこぼれる。
「――天馬、宝珠?」

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