雄夜&スイ


ひいろさんが、すっごく可愛い雄夜とスイを描いてくださいましたっ。
頂いた絵を見たとき、可愛い〜と思わずうっとりしてしまった私です。
雄夜とスイが幸せそうで、楽しそうで。雄夜もスイの前では笑顔かな?とおっしゃってくださって、確かにそうだっと納得してしまいました。
幸せそうな雄夜とスイをみていたら、ちょっとお話が浮かんだので、イメージ短編を(>_<)
ひいろさん、ありがとうございました〜。

 大江雄夜は今、緊張していた。
 両の拳を握り締め、彼はいま”あるもの”と向き合っている。
 傍らには双子の方割れと、友人の秦智帆がいた。
 二人はしばらく雄夜を眺めてから、殆ど同時に首をかしげる。
「雄夜、格好だけは随分と勇ましいけど」
「結果見にきたんだから、目をあけろよな」
 冷静につっこまれて、雄夜は肩を震わせた。
 雄夜は今、白鳳学園高等部風鳳館の廊下の前に立ち尽くしていた。
 壁には期末試験の結果と、追試者名簿が張り出されている。
 テストの点数はすでに知っているが、追試になるかどうかは、この名簿が張り出されて初めて分かるのだ。
 追試者の名簿は、雄夜にとっては恐怖の象徴だった。
 勉強は好きではない。その好きではない勉強をもっとしなければならなくなるし、追試を何度も受けていると、全体結果が平均より上の位置であったとしても、自動進学が出来なくなってしまうのだ。
「ゆーや。見ないんだったら、僕が確認するよ」
 固まっている雄夜を前に、静夜はやれやれと首を振る。
「……いや、見る」
 低く言って、雄夜はぎゅっと瞑っていた目をあけた。
 白い紙に打ち出された、学籍番号のリストが目に飛び込んでくる。それに目を走らせて、雄夜は目を輝かせていた。
「ない」
 ぽつりと呟く。
 静夜と智帆が良かったなと肩を叩いたが、それに答えずに雄夜は突然体の向きを変えて走り出した。
 二人の横をすり抜け、凄まじい勢いで駆け去っていく。
「な、なにごと?」 
 ぽかんと、二人は雄夜を見送った。
 

「す、すみませんっ!」
 大きな声を一つあげて、雄夜はとある民家の庭先に飛び込んだ。
 縁側では、老夫婦が仲良く茶を飲んでいる。庭には大きな天井もついた柵があり、その中で寝そべっている犬が居た。
 犬は雄夜の気配に飛び起きると、ちぎれんばかりに尻尾を振り始める。
 シベリアンハスキー犬の、スイだ。
「テスト終わったのかい、雄夜くん?」
 息を切って飛び込んできた高校生を前に、孫を見るように優しげに目を細めて男性が尋ねてくる。婦人のほうは、ゆっくりと立ち上がると、新しい湯飲みを取ってお茶を注いだ。
「少し休んでからにしなさい、雄夜くん」
 はい、と注いだお茶を差し出して、婦人はまた縁側に腰掛ける。雄夜は素直にソレを受け取りゆっくり飲み終わってから、スイに手を伸ばした。
 わふっと嬉しげな声をあげて、スイが近寄ってくる。雄夜は両手でハスキー犬の大きな体を抱きしめるようにして、少し荒っぽく思えるほどに撫でた。
 スイは目を細めて、ひどく嬉しそうにしている。
 シベリアンハスキー犬のスイは、この老夫妻に飼われている犬だったが、本来は隣家で飼われていた。引越し先では飼えないと言い出して、保健所に連絡しようとしていたのだ。
 老夫妻は驚いて、大型犬を自由に飼ってやれる体力が自分たちに無い事を知りながらも、保健所に送られるのは耐えられずに引き取ったのだ。
 散歩にも出来るかぎり連れて行ってはいたのだが、やはり足腰が弱ってきている二人には限界があり、スイはストレスと運動不足でだんだんと太っていってしまったのだ。
 そんな時、散歩させてくださいと老夫妻の元に尋ねてきたのが、大江雄夜だったのだ。
「雄夜くん、今日は静夜くんは一緒じゃないのかい?」
 テスト期間中、ずっと缶詰状態で勉強をしていてスイに会いにこれなかった雄夜が、心底楽しそうに愛犬と遊んでいるのを見守りながら、ふっと尋ねる。
「――あ」
 撫でていた手を、雄夜はふと止めた。
 追試者の名簿を一人で見に行くのは嫌だからと、誘ってついてきて貰っていた二人をおいてきたことに今更だが気付いたのだ。
「……まずい、かも」
「あらあら。兄弟喧嘩なの?」
「これから、なるかもしれません」
「まあっ。じゃあ、一つスイと一緒に謝って来たら? 静夜くんなら、スイと一緒に行けばきっと理由もわかってくれるわよ」
 にこにこと婦人は笑って、スイのリードを手渡した。
 ぴょこん、とスイが立ち上がる。体を強く雄夜に寄せて、”早く、早く”とねだっているかのようだった。
「……そうします。帰りは、静夜と智帆つれてきます」
「あら、じゃあ夕飯を食べていってね? にぎやかで嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「あとね、前に壊れてる電気製品あったら治してくれるって智帆くんがいっていたの。今日ね、突然テレビが映らなくなってしまって。良かったら見て欲しいのって伝えて」
「わかりました。じゃあ」
 リードをもって、そのまま門に向かう。 
 礼儀正しく老夫妻に一礼をして、雄夜はスイと共に走り出していた。
「スイは幸せものですね」
「そうだなあ。我々になにかあっても、きっとスイのために雄夜くんたちは真剣になってくれるだろうしな」
「勿論そうですよ。だって、とっても優しい子たちだから」
 二人はにっこりと笑いあう。それから、夕飯になにを作ってあげましょうかと、いたずらっ子のように目を輝かせて相談し始めていた。


 スイのリードをしっかりともって、雄夜は人通りの少ない道を選んで走っていた。
 疾走して横を抜けていく風の感覚が心地よい。
 静夜と智帆になんと言って謝るかな、と、少しだけ考えながら。