朱色の焔"Flame of the Vermilion"


初夏の陽光が芝生に映える。
昨夜の雨で、潤いを得た芝生の青さが目に眩しい。まだ濡れているからなのか、きらきらと光ってさえいる様だ。
その芝生の上にシートを弾いて、寛いでいる者が二人いた。
織田久樹と斎藤爽子である。いつもならそこに巧と将斗の小学生二人組に静夜と雄夜の双子に智帆の高校生三人組、更に最近では菊乃という将斗のガールフレンドまでそろって騒いでいるはずであった。だが、今回は違うようである。

「なぁ、なんで俺って『力』をコントロール出来ないんだろうな」
爽子に膝枕をしてもらって寝ているものとばかり思っていた久樹の突然の言葉に、爽子は驚いた。思わず久樹の顔をぐいっと自分の方に向けさせるほどである。
「うん、…何でだろうね」
答えを返せるわけでもなく。ただ疑問を繰り返すだけ。

彼ら二人はこの春三年ぶりに再会した。
自分の意思で離れていたわけではなく、大人の事情というもので分かれていた。
だが、それも大学生となった彼らにはもう関係がなかった。
やっと二人で「普通の生活」に戻れると思っていたのに、その久しぶりの再会を祝うかの様に、花を添えるような出来事があった。
その花は余りに毒々しかったのだが。
『能力の開花』――久樹には炎を操る力があったのだ。
その強大過ぎる力は、まだ彼にはコントロールできるものではなく、それに惹きつけられたのか謎の事件も起こった。戸惑う二人を助けたのが、件の小学生と高校生たちである。その縁で、今ではご近所さんと言う事もあり仲良くしているのだが。
この事件で驚いたのは勿論だったが、彼らはなぜだか納得した。
幼い時から自分たちの身の回りに起こっていた「怪現象」は、これが原因だったのではないかと。そして、「久樹にある能力が爽子にないはずがない」という確信も。
未だに答えが出ている問題ではないが、いずれその答えが解る時が来ることを、何となくではあるが感じている二人であった。


さやさやと風がそよぐ。
芝生の青臭い匂いに二人は包まれながら、ただ寛いでいた。
「ソレ」が動き出す時までの、一時の安らぎであることを既に知っているかの様に。


しかし、二人は気がついていなかった。
遠くから二人を眺めていた人物――雄夜に。
「…どうした朱花?」
炎を操る式神である鳳凰の鳥が、主の質問にすら答えずじっと二人を見ていた。いや、正確に言うと「久樹」であるが。
「バーミリオンが見えます。とても美しい…」
「ばーみりおん?」
朱花の言葉に、発音のなっていない言葉を発することで疑問にした。
「美しい朱色のことです。あれだけ強大で凶大な力を持っているにもかかわらず、なんと美しいのでしょう。その鮮やかな朱色が何物にも染まっていない…」
朱花が人であったのなら、うっとりと惚けながら言っているような言葉だった。
彼女の言葉に触発させられたのか、雄夜はまた二人を見た。
常人にはただの「恋人同士」が寛いでいる様にしか見えないだろう。だが、異質なものを見ることができる、能力者の雄夜には違う光景が映っていた。
立った一瞬のことであったが、確かに「見えた」のである。

渦巻く紅蓮の炎を周囲に漂わせ、炎を従えている「久樹」が。
そして彼の傍らにはそれが「当たり前」であるかのように佇む「爽子」がいた。
次の瞬間には、それが幻であったかのようにもう見えなかった。
それ故に、雄夜にも自分が一体何を見たのかをもう忘れかけていた。

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世界を支える元素の中で、破壊と再生の両方を司る元素がある。
もともと、全てのものは使い方を間違えれば、良いものが悪いものになるのは道理にかなっている。だが、あの元素だけは「それ」がはっきりしていた。
全てを焼き尽くし、そしてその灰の中から「何か」を産み出す能力。
炎<ほのお>とも焔<ほむら>とも言われるもの。

それを操る者こそ――帝王である。


了:作者りょくさま
かっこいい久樹が好きだというりょくさんが、かっこいい久樹を書いてくださいました。
久樹よかったね、かっこよくして貰って!!とか思ってしまった私です。
毎回最後の最後は活躍したりしてるんですが、どうも最初のほうが決まってないんですものね。それでも好きだ!といってくださる方が多くて、一番人気な久樹は、本当に幸せものだと思います。
今回はなんといっても、膝枕ですよ、ひ ざ ま く ら !!
たしかにこの二人、何気なくしてそうです。そして巧が悔しがるんですが、弟認識されているので、笑顔で「巧くんもやる?」といわれて、もっと悔しいんですね。
なんだか色んな光景が想像できる、素敵な話でした〜。遠くから見ている雄夜が良い味出していますよね!
是非是非、読まれた方は、掲示板で感想とか書いてくださると嬉しいです。だって喜ばれると思いますから!
挿絵はやっぱり、膝枕な二人で(>_<)