if 智帆助教授 --

科学部な智帆ということで、実験中の智帆がみたいな〜という感想を頂いたことがあるんです。それで裏に描いた落書きを見て、実験道具をかきたしたい!と、月亮さんが書いてくださった作品。なにげに未来設定なんですよーっ。
なんだか楽しそうな智帆がツボです。実験器具のこととか、色々と話して貰っちゃいました。
おお、智帆の未来は助教授!? 似合いそうだ〜とワクワクしながら、あそんで未来設定で小話を。実験室に遊びに来た静夜ということで♪ でもみなさんは、閉鎖の面々、未来はなにが似合いそうだと思います? 雄夜は、警察官!って想像してもらったことがあります。もしこれが似合うなというのがあったら、是非教えて下さいな。
月亮さんは、素敵なオンライン小説のサイトをお持ちです。私は俊がだーい好き。この機会に読みにいかれては如何でしょうっ♪

 間延びした助手の声が、客の来訪を告げた。
 白鳳学園に残り研究を続けている内に、彼は何時のまにやら”助教授”と呼ばれる ようになっている。おかげで生徒も客も多く、研究が中断させられることが多いのが、彼の目下の憤り点だった。
 目の前の実験はそろそろ佳境で、当然ながら席をはずすつもりはない。
「こっちに通しといてくれ」と返事をすると、助手が本気ですか!?と声を上げた。二度も言わせるなと、低く声を返す。
 ぶつぶつと助手は呟きながら、部屋を出て行った。
 ガラスの試験管の中で、成功するか、否かが決しようとしている。気がかりと同時に楽しかった。失敗であったとしても、同じ失敗は存在しない。何かしら変化している。それがどうしようもなく楽しいのだ。
「なんかさ、これって来客を迎える雰囲気じゃないよね」
 のんびりとした声が上がった。
 予想していたどの声でもなかったので、ようやく彼――秦智帆は顔を上げる。おやと目を見張った。
「なんだ、静夜か」
「久しぶり。半年ぶりかな」
「それはお前のせいだろ。毎度久しぶりになるのは」
 向けられた言葉に笑うと、静夜は臆することなく中に入ってくる。
 かつて美少女のように見えた友人は、線の細さと中性めいた容姿は変わらないままに、大人になっていた。気にしていた身長については……黙っておくことにする。
「それにしても、今回の外国行きは長かったな。いつかどこかに気に入った国が出来て、還ってこなくなるんじゃないか?」
「どうだろう。帰ってくるべき、愛しきこの国があるからこそ、外国に行けるんだし」
 ”言葉”に興味を持つ静夜は、世界中の言葉を研究している。表向きの職業は写真家で、それで生計を立てているのだが、彼が赴く理由はいつでも”言葉”だ。
 智帆は静夜の取る写真が好きだ。
 あまり伝えることはしないが、静夜は水の捉え方が独特で、ひどく優しい。美しい写真と、整った容姿も相乗効果となって、かなりの人気を誇っている。
 助手が実験室に通すのも嫌ったのも、世間一般的にひどく繊細な人物と想像されている静夜を、この実験道具がごった返す部屋に入れるのがはばかられたからだなと、智帆は考えた。
「しかし凄い匂いだね」
 一般人なら、すぐさま逃げ出しそうな研究室の中で、静夜は感想を述べながらも平気な顔をしている。だからこそ、同じことをしているのではない人間の中で、唯一この研究室に入ってきても苛立ちを感じないですむのだった。
「有機化学実験室なら、どこもこんなもんだ」
「凄い世界だよね。あ、ちなみにいかに凄い実験であるかを、語らなくっていいから」
「先回りの拒絶は性格悪いぞ」
「目が輝いてるんだよね。成功したら論文読ませてよ」
「お前の興味って、研究内容よりも、論文そのものって気がするな」
「さてどうだろう。で、実験は成功しそうなんだろ?」
「まあな。成功すれば、けっこう凄いことになる」
 正直、手ごたえは感じていた。
「ふーん。智帆が記者会見する日を楽しみにしてるよ。サイン貰いに来るから」
「欲しくもないくせに、よく言うよ」
「外向きの態度で貰いに行こうかなあ。なんだって、僕は元気そうにしてないほうがいいだろうね」
「見かけのイメージだな。俺の前でやったら排除するから」
「薬品での排除は怖そうだね。では、退散するとしようかな」
「もう行くのか?」
「雄夜に顔みせときたいし。そうだ、夜にご飯でも食べようよ」
「実験次第じゃ、遅くなるけど、いいか?」
「いいよ。開いたら電話してくれれば」
 ひらひらと手を振る。そのまま外に出て行きかけて、唐突に彼は戻ってきた。
「忘れてた。土産」
 ポートレートを差し出してくる。
 うなりをあげて風が吹く瞬間を、封じ込めて形にしたような写真。
 激しくもあり、優しくもある。
 まじまじと写真を見た後、智帆は「ありがとな」と笑った。