久樹
黒白灰さんから頂いた、久樹。
あまりの格好よさに、私久樹って格好よかったのねという驚愕の事実に気づきました。<驚愕なんかい
主人公でありながら、ひどく虐げられている久樹ですが、それでも”久樹が好きだ”と言ってくださるありがたい方はなんと多かったりします。
人気のある主人公を書けているという事実は、個人的に、かなり成功っ!とか思っているので幸せな限りです。
頂いた際に、こんな格好よい久樹の話、○オチで書きたいですーといったら、おっけーしていただいたので、書いてしまいました。
折角格好よい久樹なのに。ショートは、結局今の久樹はこんな感じでごめんなさいって感じになってしまいました。
とりあえず、最終話までには、久樹がかっこよくなることをお約束(多分)致します。
ああ、でもこの久樹、本当にかっこうよい(うっとり)
瞬間、炎が見開かれて無防備となった眼球を炙って、斎藤爽子は硬く眼差しを閉ざした。
暑さと、衝撃とに戦きながらも、瞳に水分が戻るのを待つ。
「爽子、そこで待ってろっ!」
両手でまぶたの上を硬く抑え付けた爽子の耳に、凛とした男の声が響く。
聞こえてきた声が誰のものであるかを、脳が確認するよりも早く、息が詰まった。
「久樹っ!」
数秒遅れて名前を叫ぶ。遠慮のない炎の熱が、開いた口腔内の水分を奪い取っていく。声はすぐにしわがれて、名前に続く言葉を発することは出来なかった。
塊の気配が、すぐ側にある。
それが”邪気”と呼ぶべきものであることを、爽子は知っていた。
二人、平常通りに歩いていた。白梅館を出て大学部水鳳館へと進み、校門をくぐった瞬間だった。
のそり、と。邪気が気配を見せたのは。
危ないと思ったときには、周囲は炎に包まれていた。
――炎。
爽子の幼馴染である、織田久樹が持つ”炎”と同じだ。けれど、向けられた炎は、破壊だけを目的とする禍々しいもの。
最初に目を開けられなくなった。
と同時に、久樹が走り出していたのだ。
「……ひさ……っ!」
声を上げようと必死になる。
何が起きているのかを確認したくて、目を開けた。
熱と、炎と。それだけが側にあって、確認をするだけのことが、やたらと難儀な作業になる。
――けれど。
爽子は見た。
からからに乾いた眼球が、瞼を閉じろと叫びを上げる中で。
破壊の炎とは完璧に異質である、炎を久樹はまとっていた。
炎に照らし出された瞳が、赤々とした光をたたえ、前を見据える。
噛み締められた歯からこぼれる、浅い呼吸。
緊張に寄せられた眉根。
それら全てを爽子は確認し、限界を迎えて、目を閉じた。
「あら?」
ピッ、と連続になる音を耳に収めて、爽子は瞼を開いた。
手を伸ばし、電子音を発する物体を手に取る。秒針が音もなく進むさまをしばらく見つめて、爽子は自分が夢を見ていたことを理解した。
「なんだ、夢だったのね」
幾度か大きく瞬きをし、呟いてから、くすりと笑う。
「そうよね。久樹が、あんなふうに動くわけないか」
ベッドの中で器用に肩をすくめると、爽子は立ち上がって洗面台に急いだ。蛇口をひねり、冷たい水を両手に受けて、顔をぬらす。洗顔用の石鹸を手に取ってあわ立てながら、爽子は少し、先ほどの夢に思いをはせる。
覚えている夢の断片をつなぎ合わせると、自分を守るために、久樹は邪気に向かって走り出したということになる。同時に、待ってろ、と叫ばれた声の凛々しさだとか、邪気と対峙する後姿とが思い出された。
「……。……。あとで、かっこよかったよ、って言ってみようかな」
爽子の胸は、ドキリと高鳴っていた。
夢オチでした<笑