カチェイ





民てる戸様から頂いたCG。
カチェイが…カチェイが無茶苦茶格好いいですーー!(鼻血)
動きのある絵って凄く好きなんです。しかも一番好きな剣を使っているシーンそのもの(><)
血飛沫の色と、カチェイの表情がなんとも格好よくて。貰った瞬間踊りだしそうになりました。
短編、「再開」で場面転換して書かなかったシーンを書いちゃいました。少しでもイメージに沿えば良いのですが。
本当に、素敵なカチェイをありがとうございます!!!



イメージ短編


「さて、誰から先に血祭りに上げられたいんだろうね」
 ひどく静かに、氷華を左手で持ち下げて、言い切る声。
 声の主が存在する確かさに、背負う鞘に収めた大剣の柄に手を置いて、唇の端を釣り上げてカチェイは笑った。
「俺らじゃないってぐらいしか、確実なところは分からないな」
 低く、不敵に答える。
 背中越しに感じる、親友が笑った気配。
 手柄を求めて、ザノスヴィア兵が群がって迫り来ている。
 馬鹿にするのも、大概にすればいい。
「力量も知らない奴等が」
 かちり、と音を立てて。鞘から真紅の刀身が露になってゆく。カチェイの身長程もある大きな剣。ティオス公国に伝わる魔剣、大剣紅蓮。
「束になっても、おまえ等じゃあ俺の相手にはなんねぇよ!」
 一声、咆えた。
 左右から敵。背後からも敵は迫りくるが、それは無視する。
 背後で空気をも切り裂く速度で細剣が舞う気配。力任せではなく、速度を重視する剣は、確実に敵の急所を切り裂く。―― 背後の敵は任せておけばいい。
 大きく紅蓮を振りかぶり、一歩前に出ていた右手の兵を、上段から下段に切り下げた。当然体が右に傾いだのを、チャンスと受け取って走り込んでくる左手の兵を、紅蓮を左手で持ちかえて突き込んでやる。
 ―― 鮮血。
 なぎ倒された命に気づいていないのか、悪あがきのようにたたらを踏んだ後、敵兵は大地に崩れ落ちていく。一つ、二つ…数えれば切りがない。
「よくもまぁ、あきらめないもんだな」
 感心しているように見せかけて、嘲笑する。
 とんとんと、地面を紅蓮の切っ先でつつくようにもした。
 背後で笑う気配がして、しっかりと親友が聞き取っていることを知った。
「なにせ彼等にしてみたら、出世がかかっているからね。勲功を立てる戦場が減れば、後ろ盾も持たない下級兵士が出世できるチャンスは殆どない」
「実に恐ろしきは、出世欲ってか」
「ないしは、いい暮らしをさせてやりたい、っていう夫心、親心かもしれないよ? 健気なものじゃないか」
 二人、随分と酷薄なことを言い募りながら、振り向きもしない。
 アデル、ティオスの二公子を取り巻いて、ザノスヴィア王国兵が困惑している。たった二人の人間が、ここまで強いとは想像していなかったのだろう。どうすればいいのか、と動揺してる敵兵を前に、カチェイはのんびりと言葉を続ける。
「で、お前、具合は?」
「すこぶる最悪。流石に血が足りないね」
「病み上がりならぬ、死に上がりだからな。仕方ねぇな。ちと、早く終わらせるとするか」
 空で一回きっただけで飛散した血糊によって、じっとりと濡れた大地に、切っ先を触れさせて遊んでいたのを中断させる。何だ?と疑問に揺れる人々の前で、強く剣を大地に差し込んだ。
 鬼神のような強さは、特殊な剣である紅蓮・氷華に原因があるのではと考え始めていた兵の目が、貪欲に揺れる。
「さぁ? おまえ等がたった今、恐れた剣を俺は離してやったぜ? これで、五分五分だ」
 紅蓮の代わりに、普段使い慣れている大剣に手をはわせ挑発する。
 本当は、紅蓮よりそっちのほうが使いやすいくせに、と背後から小声で指摘された。肘でちゃちゃを入れるなよと小突いた。
 早くきりを付けるならば、雑魚兵を相手にし続けるのは効率が悪い。
 ―― 敵の頭を潰すのが、手っ取り早いだろう。
「ほらほら。一対一で相手してやるって言ってんだぜ? しかも普通の剣でだ。群がって襲い掛かって来た勇気があんだったら、今の俺に戦いを挑んでみろよ。出世は約束されているぜ? 俺は時期アデル公王であり、最強とみなされている剣豪なんだぜ?」
 さらに挑発を続けるカチェイに合せて、アトゥールも、すっと剣を鞘に収めた。
「ほら。こいつも剣を収めた。これで氷華も沈黙だ。一体一でも戦えないか? おまえ等、腰抜けばかりかよ?」
 更に煽ると、取り囲んでいる兵が割れた。
 良く言えば精悍、悪く言えばいかにも粗野な男が飛び出してくる。
「二刀流か。なるほど。で、軍装から見るに―― 百人大隊長といった所か」
「あれが大隊長。ザノスヴィアは品が足りないね」
 辛辣なアトゥールの酷評が終わるのを待たずに、敵は突如走り出した。
 本来、身分ある者と一騎打ちをする場合は、踏まねばならぬ礼儀作法がある。けれどそれを無視することで、不意を付くつもりなのだろう。―― だが。
「レベルが低いっ!」
 鞘走りの音と共に、カチェイは大剣を抜く。
 一歩、アトゥールが歩いた。
 ―― 音。
 そして、血飛沫。
 風に戯れるように揺れた、光を反射して淡い金色に見えるアトゥールの髪を、追いかけるように散った、命の色。
 ちっ、とカチェイは舌打ちをし、剣を強く右に払った。
 下半身と、上半身とを完全に分断されて、駆け込んできた相手が倒れる。
「決められた礼儀くらい払っとけばな。もうちっと、奇麗に殺してやったのによ」
 やっぱ、品が足りないのかねと呟いて、剣呑に敵兵を睨んだ。
 気おされて、じりじりと後退し、一斉に撤退をはじめた。置いていかれることを本能で恐れるのが人間であるのだから、こうなれば崩れるのは早い。
 統率するべき役目を持った人間が迅速に現れなければ、敵はしばらく混乱しつづけるだろう。
 大剣をしまい、紅蓮を持ち上げ、思い出したように振り向く。
 結ぶ紐が切れた為に、風の望むままに揺れる髪を親友は押さえていた。
「ところでお前、最後よけたろ?」
「わざと血糊を浴びる趣味はないね」
 変わらないアトゥールの言葉にからからと笑い、カチェイは軽く手を挙げる。心得ている金狼・風鳥騎士団が乱れぬ統制のまま駆けつけてきた。
 そしてゆっくりと、レキス公国内までの撤退を開始する。