シュフラン





[ My Castle ]の寿あすか様から頂いたCG。
15万HITお祝いを含めて、シュフランを書いてくださいました(><) 
あまりにシュフランが可愛くて、画像見た瞬間に、「きゃー!」と叫んでしまいました。もう、本当に可愛い(><)
こんなに可愛い女の子に書いてくれて、本当にありがとうございますー!
見た瞬間にちょっとした話が浮かんだので。一緒に乗っけちゃいます♪


イメージ短編小説

 純白の羽が、唐突に大空に撒き散らされて、水面へと落ちていく。
 すう、と息を吸い込んで、偶然目撃した光景に少女は胸を押さえた。
 どきどきしている。なにかこう、突然の贈り物を受け取ったような気分だ。
 なにやら一人占めしているのが勿体無いような気がして、少女は窓から乗り出していた体を戻し、屋敷内に向かって声を張り上げた。
「母さま! ネレイル母様っ!」
 先程目の前に白い羽を撒き散らした鳥に似た、高い声で母親を求める。
 目の前を流れる静かなウリエヌ河は、国境を繋ぎ、海へと至るエウリス河と並んで、水軍国家エイデガルの命脈をになう河の一つだ。
「どうしたの、シュフラン?」
 穏やかな声と共に、母親は階段を上ってきて、一人娘に声をかけた。
「見て、ネレイル母様。今、鳥が一斉に飛び立ったの」
 精一杯に指を伸ばして、前を示す。
 砂の流れによって発生した中州に、鳥が集まっていることが多い。その鳥が―― 一斉に飛び立ったのだろう。
「きっと、天敵が現れたのでしょうね」
 穏やかに言いながら、娘の頭をネレイルは撫でた。
「天敵?」
「そうよ。だからきっと、飛び立って逃げたんだわ」
 ようするに、緩やかに休んでいた鳥たちを襲う肉食の獣が現れたというわけだ。
「そっか。……あのね、ネレイル母様。シュフラン、鳥が一斉に飛び立ったとき、空中に白い羽根が舞ったのが凄く奇麗、って思ってしまったの」
「青空に、純白の羽根が飛び散ったら、誰が見ても奇麗だと感じると思うわ」
 静かに答えながら、ネレイルは膝をかがめて、娘と視線を合わせる。
 こっくりと肯いて、金褐色の髪を揺らせて、シュフランは窓の外を見つめた。
「鳥にとっては必死で、命に関わることだったのに。遠くから見てるだけの第三者には、単純に奇麗だって思っちゃうのね」
「誰だって、シュフラン」
 微笑んで、なぜだか泣き出しそうな表情になって行く娘の小さな手を取った。
「当人にはなれないの。だからね、私たちが見た何かがね、悲しいことなのか、楽しいことなのか。分からないわ」
「うん」
「群れをなす動物たちは、独特の合図を持つわ。危険を知らせたり、共に行動するように促したりね。それは―― 人間も同じ。みんなが一斉に行動したりはしないけれど。でも、一緒に行動しようとすることは多いわね」
 だからね、と言葉を続けて。ネレイルはさらに、笑みを深めた。
「人は言葉を持つのよ。それがたとえ、誤解を生み出すものであっても。理解をして欲しいから、言葉をつづるのよ。言わなければ、伝わらないから」
「―― うん」
「困っているときには、素直に助けを求めることが出来る大人になりなさい、シュフラン。その為には勿論、助けを求めるに足る相手を探す必要があるから、頑張るのよ?」
「ネレイル母様」
「なぁに?」
「母様にとっての、助けを求めることが出来る相手って、ロキシィ父様なの?」
 父親は、エイデガルを支える五公国の一つ、ミレナ公国王である。
 だから最初、両親は国を支える者に有りがちな、政略結婚だったのだとシュフランは思っていたのだ。
 まさか父が母を口説きに口説いてお嫁に来て貰ったなど、考えもしなかった。
「違うわ、シュフラン」
 こつん、と。娘の額に自らの額をあわせて、悪戯に母親は笑う。
「ロキシィが素直に許しを請うことが出来る唯一の相手が、私なの。私にとって、唯一待っていてあげたいのがロキシィなのよ」
「待っていてあげたい?」
「そう。だって、どうせあの人が帰ってこれるのはここしかないのだから。帰る場所が有るから、ロキシィは好き勝手に旅を続けていられるの。本当の意味での根無し草になることは出来ないくせにね」
「守っていてあげるの? ネレイル母様」
「ええ。私がそうしたいから。守っているの」
 どこか誇らしげに言いきった母親をまぶしそうに見上げて、シュフランは肯く。
「私も、頑張る! そういう人、見つけるもん」
「そうね。シュフランが大きくなるまで、あの二人が独身のままだったらいいわね?」
「そうなの! それが問題なのよ、ネレイル母様。歳の差なんてこの際関係ないわ! 問題は、二人が独身でいてくれるか、って事なのよ!」
 命の危機にあったものを見て、奇麗だと思ったことにショックを受けていた気持ちは何処にやったのか。いきなり拳を握り締めて力説し始める娘に、ネレイルは笑う。
「でも、もう一つ大きな問題が有るわ、シュフラン」
 悪戯っぽく首を傾げた母親に囁かれて、シュフランは顕著に焦った。
「な、なに!? まだ問題がある、ネレイル母様!」
「ええ。だって、シュフラン、二人とは結婚できないのよ? 出来るのは、一人だけ」
「!! そ、そうだった! どうしよう、ネレイル母様!!」
 本気で焦った表情で、縋るように胸に飛び込んできた小さな娘が愛しくて、ネレイルはシュフランを抱きしめて、頭を撫でた。
「そうね。大きくなって、お婿になってください、って本気でお願いしに行く前までには、決めれるように頑張ってね。私、あの二人だったら息子にしてもいいわよ」
 ロキシィは総毛だって嫌がるでしょうけれどね、と心の中で言葉を続けながら、娘の大きな藤色の目を覗き込んだ。
「うん。頑張る。そして絶対いい女になってみせるの!」
 断言して、シュフランは笑った。