番外編

目次
[揺れる笹の葉に]

 山から切り出してきたといって、大江康太は突然に竹を貰った。
「あ、七夕ですか」
 ぽんっと手を叩く。
 近所の老人たちに人気のある白鳳学園の保険医は、にこにこと笑って、彼の為だけに竹をきってくれた老人に頭をさげる。古風なリヤカーを借りて、学園の敷地内にある寮、白梅館へと戻る。途中で偶然に織田久樹と出くわして、彼は不思議そうに目をはった。
「康太先生、なにやってんですか?」
「あ、いいところに。せっかく貰ったんで、なんとか運んで来たんだよ」
「立派な竹ですね。……竹って、あ、七夕?」
「そうなんだよ、寮生に小学生がいるって知ってね、竹を持っていきなさいといってくれたんだ」
「いい人ですね。こんなの、買ったら高いだろうし。あ、手伝いますよ」
 気さくに言って、久樹は手を伸ばす息もぴったりに運搬を繰り返し、竹は白梅館の壁を利用して斜めに立てかけた。
「竹の見た目って、涼しげですよね」
「体感温度はかわらないけれどね。あれ、なにをしているんだい?」
 首を傾げた康太の目の前で、久樹は携帯電話で連絡を取り始める。
「んーー? 久樹くん?」
「いま、将斗たちを呼んだんですよ。でも静夜たちは部活で来れないそうです。サチは電話に出ないし」
「そりゃあ久樹くん、しーちゃんたちだって部活にちゃんと出るよ」
「へえ、そうなんですか? 結構さぼってるのかと」
「本格的な夏になると、溶けるー!って言って、しーちゃんはどっかの文化部にもぐりこんじゃうみたいだけどね。ユウくんや智帆くんは、ちゃんと出てるよ」
「でも七夕なんですし」
 戻って来てもいいんじゃと久樹が口をとがらせるので、康太は可笑しそうに目を細める。
 七月七日、七タ。
 一年にたった一日だけの、恋人たちが逢瀬を果たす日だ。
「織姫と彦星って言うのは、なんとも切ない恋人たちだよね。一年で会えるのが、たったの一度きりだなんてね」
 なにを思ったのか、康太の瞳に漣のようなゆらぎが走る。
 どうしたんですか?と尋ねかけて、久樹は白梅館のエントランスから飛び出してきた立花菊乃に気付いてそちらに顔を向けた。
「菊乃ちゃん?」
「あ、久樹おにいちゃん! あのね、お姉ちゃんね、携帯電話をおうちに忘れていっちゃってるの。菊乃、いまからお姉ちゃんを呼んでくるよ」
 息をきらす友人の妹に、久樹は慌てて手を振った。
「急ぎってわけじゃないからいいよ。折角だから、サチも参加するかなって思ったんだ。菊乃ちゃん、七夕の笹の飾りを一緒にやらない?」
「一緒に?」
「もちろん。お、将斗と巧も出てきたな」
「え、将斗君!?」
 ぱっと菊乃は顔を輝かせて、連れだって出てきた初等部の二人、川中将斗と中島巧にかけよる。
「あのね、将斗くん! 久樹おにいちゃんがね、一緒に七夕の飾り付けをしようって!」
「七夕の飾りつけって。久樹兄ちゃん、短冊作りでもんすんのー?」
 驚いた声を将斗が上げる。久樹はまるで自分が貰ってきたかのように、誇らしげに立てかけた竹の節を手でそっと撫でた。
「すっごく立派な七夕になりそうだろ? 折角なら全員でと思ってさ」
 集まってやったら、楽しいよなぁと久樹が笑う。
 従兄弟の将斗と、大きな竹の側にいる久樹とを見比べていた巧が、小さく意気を落とした。
「異常なくらいに楽しそうだ。あんたってもしかしてさ、イベント好きなわけ?」
「巧、俺の事をガキっぽいって思ったろ?」
「竹をもらってきたくらいで、そこまではしゃぐなんてさ」
「爽子と同じで、好きなんだよな。そうか、爽子もガキっぽいか」
「そ、爽子さんは別にっ!」
 久樹のからかいに乗ってしまって、巧は思わず声を上げる。
 巧が爽子に片思いしていることなど知らない菊乃は、一部始終を見つめたまま、不思議そうに首を傾げた。
「ねえ、将斗くん。どうして、巧くんが困っているの?」
「なんでって言われると、説明しにくいなー。馬にけられてしまえ!って奴だよ、多分」
「馬?」
「うう、俺にフォローなんて無理だ」
 呟いて、将斗はそのまま地面に座り込もうとする。
 それと同時にエントラスを出てくる音が響いて、斎藤爽子が色紙や折り紙を手に持って飛び出してくるのが見えた。石化していた巧がだれよりも先にソレに気付いて、慌てて手伝うために駆け出していく。
「爽子さん、持とうか?」
「あ、ありがとう。ねぇ、久樹、これくらいで足りる? 美術部の子から貰ってきたんだけど」
「充分、充分。んじゃ、色紙で短冊を作ってくれよ」
 久樹は気軽に紙の束を将斗に渡す。「いいよー」と答えると、将斗はカッターを手にする。何時の間にか姿をけしていたはずの大江康太が戻ってきて、外で作業するのにも便利な折りたたみのテーブルと椅子を運んできた。
 巧は爽子と久樹とともに、飾り用にと折り紙を複雑な形に折り始める。
 おどろくほどに器用に折り紙を作っていく巧に驚いて、爽子が歓声をあげた。その声に驚いて振り向いた菊乃も目を丸くする。
「巧、妹がいるからさー。折り紙とか好きで、よく折ってやってたよ」
「そうなんだ。菊乃にも折ってほしいな……」
「お、おれは無理。あとで巧に頼んどくよ」
 ごめんと謝って、将斗は色紙を適当な大きさに切っていく。康太がパンチで穴をあけ、菊乃が紐を通して短冊を作った。
 単純作業は案外とのめりこみやすいもので、規則正しい作業の音が響き始める。自然と言葉が少なくなっていったところで、「よく分からないことがあるの」と、突然に菊乃がつぶやいた。
「へ?」
 パチンッと音をたてたはさみの音が、やけに響いた。
 康太もパンチを机において、続きを促すように首を傾げる。
「あのね、織姫様も彦星様も、一年に一回しか会えなくなっちゃったんでしょう? 悲しいんでしょう? なのにどうして、菊乃たちのお願いを聞いてくれるのかなぁ?」
「んー、言われてみりゃ、そうかー。康太せんせー、答えは?」
「そうだねぇ。織姫と彦星は、たった一日だとしても、会えることが嬉しいのかもしれないね。だから幸せのおすそ分けってことかもしれないよ」
「おすそ分け?」
「一人で喜んでいるより、二人のほうが嬉しいし。二人よりも沢山の人が喜んでいたほうが、みんなが幸せでいいと思うんだよ」
 笑顔をみていると、幸せな気分になれるだろう?と、保険医は言って笑う。
 少し悩むそぶりをして、菊乃はきゅっと唇をかんだ。
「菊乃はね、たった一日じゃ幸せって思えないよ」
 ぽつんと落とされた声が、涙をこらえるように震えている。将斗はぎょっと目を見張り、慌てて顔を覗き込んだ。
「どうした、菊乃ー?」
「菊乃ね、夏休みの間に将斗くんと離れるだけで、もうさびしいの。それなのに、一年に一回だなんてやだよ」
 織姫さまと彦星さまがかわいそうと呟いて、菊乃はいきなり泣き出してしまう。わたわたと慌ててから、将斗はなるべくそっと手を伸ばし、少女の背に手を添えた。
「なに女の子を泣かしてんだ。その子、低学年の子だろ?」
「うわぁ!! ち、智帆兄ちゃんっ!」
「よ」
 白衣姿の秦智帆が、めずらしく眼鏡を胸にかけた状態で、両手をポケットにつっこんで立っている。やけに目をこすろうとしているので「コンタクト?」と将斗は尋ねた。
「そうなんだよ。俺に使い捨てのコンタクトをさせる日、だとさ。科学部も時々なにやるかわかんないよな」
「智帆兄ちゃんって、眼鏡ないとちょっと幼いかもー」
「将斗? なんか言ったか?」
「ううん。なんでもっ」
 張り付いた笑顔で将斗はふるふると首を振る。知らない人間の登場に、びっくりして涙をひっこませた菊乃は、少年の背に隠れてちらりと智帆を見上げた。
「あー、悪いな。驚かせて」
 菊乃が怯えていると気付いて、智帆は切り上げようと手を振る。その仕草が意外と幼く見えたので、菊乃は思いきって口を開いた。
「コンタクト、外しにいくの?」
「俺は眼鏡のほうが好きなんだ」
「あ、あのね! 菊乃も、眼鏡のほうが似合いそうって思うよ」
「へえ、ありがと」
 面食らいながらも、怖がらせないようにと笑顔らしきものを見せて、智帆は寮へと入っていこうとする。その後姿にむかって、将斗は突然尋ねたくなって言葉をなげた。
「智帆兄ちゃんはさ、七夕の願い事ってどう思う?」
「はあ? ……なんだよ、いきなり」
「織姫と彦星は辛い目にあってるのに、どうして願い事をかなえるんだろうって言うんだよー。たしかに言われてみると不思議だなって」
「ふぅん。願い事をかなえる理由ね」
 ごちると、智帆は癖なのか腕を組む。
 興味を誘われたのか、久樹たちも顔を上げる。注目されてるなと、智帆は苦笑した。
「願い事をかなえているのが、織姫でも彦星でもないってとこだろ」
「織姫でも彦星でもない? 智帆兄ちゃん、じゃあ、だれ?」
「天帝ってとこかな」
「ええ? それって、二人を引き裂いた張本人ー?」
 なんでなんでと将斗が唇を尖らせた。背中に張り付く菊乃も、こくこくと頷く。
「二人にそれぞれの仕事をしてもらわんと困るから、引き裂いたわけだろ。しかも一年に一度しかあえないようにするなんぞ、何様って奴だ」
「何様って……なんか智帆君らしい言い方」
 爽子が口を挟んでくる。
「でもそうだろ? 働かずに食えなくなって困るのは当人で、当人がそれでいいってんなら口を挟むことでもないさ。大人なわけだし」
「まあ、それはそうなんだけど。……ねえ久樹、一体なにを笑ってるの?」
「なんかあまりにらしい考えだからさ。願い事がかなう理由か。康太先生の考えに一票だな。爽子は?」
「私? 私は、あらためて考えてみると、……菊乃ちゃんと同意見かな。織姫と彦星がかなえてくれるんだろうって思ってたから。そうだとすると、他人の願いごとまでよくかなえてあげるなって思うわ」
「さびしがりやなんだ、爽子さんは」
 黙っていた巧が、ぽつんと声を落とす。「そう?」と爽子は目を丸くした。
「俺だったら、会えるってことが嬉しくって、周りのことなんて目に入らないかな」
「情熱的な答えだな。でもまあ、周りにかまってられないって点では一緒か」
「だって、そんなもんだろ?」
 巧がむっとした顔になったので、智帆はわざとらしく目をそらす。そのそらした視界に、こちらへと戻ってくる人影を見つけて手を上げた。
「静夜、雄夜」
「え? 二人が戻ってきたの?」
 驚いた巧が、怒りを忘れて振り向く。双子は全員がエントランスにいることに驚いた様子で、目を見張って走り出した。道からエントランスまでは遠くないので、すぐに二人が駆け込んでくる。
「なにやってんの、智帆。康太兄さんまで」
「俺はこっそりコンタクトを外しにきたんだ。康太先生たちは、七夕の準備だって」
「ああ、それであの竹。立派なもんだね。雄夜、なにうきうきしてる?」
「……願い事が叶うんだろ? 短冊に書くと」
「本気で信じてわけ?」
「ん。将斗、一枚」
 ぬっと雄夜が手を伸ばす。なにを書くのかと見守る中、雄夜はかまわずに書き出した。書き終えたところで、静夜は素早く短冊を奪い取る。
「……ゆーうーやー?」
「なんだ?」
「そういうことは、僕に直接言えば?」
「いやだ」
 真一文字に唇を引き結び、雄夜はなぜか胸をそらせる。
「クーラーの設定温度があがりますように?」
 静夜が握り締めた手からはみでている短冊にかかれた文字に、爽子が目を丸くする。巧と将斗が顔を見合わせて笑い出し、久樹は大またで双子に近寄って華奢な背をばんばんと叩いた。
「静夜、織姫様にめんじてかなえてやれよ!」
「寝れないんだってば。それにさ、自分の部屋のしかつけてないんだからいいだろ」
「冷気がくる」
「雄夜ー!」
 美少女のような整った顔を紅潮させて、静夜が語気を荒くする。少年の肩に唐突に手を置いて、智帆がいたく神妙な表情でうなずいた。
「クーラーは偉大だよな」
「すばらしい発明だと思うよ」
「だろう。すばらしい発明は使ってこそ、偉大さをたたえることとなる。よって設定温度は下げるべきだな」
「そうだよね。せっかく下げられるんだから、機能は活用すべきだよ」
「夏に二十六度に設定しろだなんて、ナンセンスだよな」
「そう、ナンセンスだよ」
 なぜか強く頷きあっている。雄夜はため息を落としたが、どうやらペンギンの心をもつ二人を揺さぶることは出来ないようだった。
 呼吸困難に陥りそうなほどに笑い続けながら、巧が必死に息を整える。ぜぇぜぇと胸を抑えてから、咳払いをし、双子の前で顔を上げた。
「雄夜にぃと静夜にぃはどう思う? 七夕に願いごとをするのはなぜかって。あの子はさ、織姫も彦星も辛いのに、どうして周りの願い事をかなえるんだろうって不思議がるんだ。康太先生は、幸せのおすそわけだろうって言うよ」
「星に願いを、なんじゃないかな?」
 なんでもないことのように言って、静夜が空を見上げる仕草をする。
「星?」
「昔の人から見れば、暗夜を照らす星星は希望のともし火のようにも見えたろうからね。だから希望に願うんじゃない。……本当は、誓いだったのかもね」
 以下同文とばかりに雄夜が頷いたので「ちょっとは自分で考える!」と、少年は肘で片割れをつつく。
「星に願いを、ね。織姫彦星に関係ないと考えるあたりは、俺と同じだな」
「智帆はなんて?」」
「天帝の非道隠しだろ。自分たちが困るからって、恋人たち引き裂いたんだ。しかもあれだ、一年に一度しかあえないってのに、感謝しろとばかりの態度だろ。俺があんな目にあったら、革命を起こすな」
「そこまでして取り戻したい相手、いるわけ?」
「俺が全てをささげる相手なんぞ、そうそう見つかるわけないだろ」
「一生独身を狙う?」
「必然だからな」
 すうっと智帆の目が細まる。
 凄みさえも宿したそれに、静夜以外の面々が凍り付いて息を飲んだ。
 異能力を持つ以上、理解できぬ相手に必要以上の期待などできぬのが事実なのだ。
 智帆の言葉に秘められた真意を一人理解して、静夜はすこしさびしげに笑った。
「まあ、そうかな。でもまあ一人じゃないし?」
「そう都合よくいくもんか?」
「いかせるならね。さて、この話題は終了。まわりが引いてる」
 ぱんっと手を叩く。寮に用事があって戻ってきたばかりだった三人は、そのまま歩き出し、
「しーちゃん、ユウ君、智帆君」
 黙って様子を見守っていた康太に、唐突に呼び止められる。
 ゆっくりと振り向いた三人に、康太は柔らかな笑みを浮かべてみせて、手にした短冊とサインペンを差し出した。
「願い事」
「僕ら? ……えっと」
 困惑した表情になった甥っ子を、康太は優しい目で見つめる。それぞれの手に、半ば押し付けるように一枚ずつ短冊を渡していく。
 静夜は困惑し、雄夜は目を丸くし、智帆は不思議そうな顔をした。
 独特の柔らかさをもつ康太は、三人三様の反応を見定めて、晴れやかに笑う。
「幸せのおすそわけだとも思うけどね、何かを願うことをやめない為の日でもあると思うんだよ」
「なにかを願うこと?」
「そうだよ。願うこともしなくなったら、何も変わらないからね」
 だから書いていくんだ、と。拒絶できない強さを秘めて、康太は高等部の生徒たちをみすえる。しんとした緊張が走る。八つの目が互いに互いを見据えながら、まるで火花でも散るかのようだった。
「……貸して、康太兄さん」
 ふっと、まるで先ほどの緊張感が偽りであったかのように、静夜が手を伸ばした。
 そのままさらさらとサインペンを走らせて、達筆な字でなにかを書き留める。それに触発されたかのように、智帆と雄夜も同じように書き始めた。
 思い出したように静夜が雄夜に視線をやる。
「雄夜、エアコンの温度設定をもう一度書くのはなしだから」
「――犬が飼いたい」
「そっちできたんだ」
 笑って、静夜はそのまま短冊を康太に渡す。
 智帆も同じように差し出して、そのままきびすを返した。


「ねえ、あのおにいちゃんたち、何を書いたの?」
 突然に現れて、突然に去ってしまった三人を見送って、菊乃が尋ねる。
 将斗は「んー」と、康太の前で唸った。
 犬が飼いたいと書いた雄夜はともかく、静夜と智帆はわずかに単語を書いているのみだったのだ。
「これ、願い事っていうのかー?」
 ――「希望」
「希望が持てるようになりますようにって、ことなのかしら?」
 短冊を覗き込んだ爽子が、久樹を見上げる。
 久樹は眉をよせ、去っていった三人の残影を探すように目を細めた。
「あいつらって、なにを感じてきたんだろうな」
 無口な雄夜はともかく、饒舌な静夜と智帆は、時折こうやってなにか不思議な影を見せることがある。久樹には、その理由が全く分からなかった。
 一人、巧はもう一枚の短冊に視線を落とす。
 ――「平穏」
 邪気を感じ、邪気を制し、圧する力を持つがゆえに、巧たちは拒絶されてきた過去を持つ。
 願い事を口にするような余裕もなく、ただ現実を乗り越えねばならないことも多かったのだ。
「願い事を持ち続けるための日、かあ」
 

 空を見上げる。
 太陽の日差しの勢力化では、きらめく星の輝きを見て取ることは出来ない。
 けれど、見えはせぬこの瞬間も、それらが存在する事を巧はしっている。
「見えなくても、そこにある光か」
 なぜだか元気が沸いてくる。
 背後でまだ色々と話し合っている一同を横目で見やり、それから巧はくるりと振り向いた。
「七夕の準備、続けよ」
 久樹が振り向く。「そうね」と爽子が言って、また折り紙へと手を伸ばした。
「巧、俺はいつか、智帆たちがなにを願うのかが分かるようになんのかな」
「理解しようと思えば、なるんじゃん?」
「理解しようと、か。じゃ、俺は短冊に理解ってかくかな」
「なにそれ? 二文字つながりってこと?」
「そうそう、折角だからさ。巧もそうしろよ」
「……二文字にするんなら、それなら……」


 ――無事。


 結局、巧は久樹にソレを見せなかった。
 ただ将斗が気付いて、「大丈夫だってー」と笑った。
[終]


珍しいですが季節モノで、番外編です。久しぶりなので本編をかくまえに、リハビリをかねて書きました。
灼熱を逃れて、開始前の話です。なのでまだ菊乃とは知り合いではなく、久樹と巧もかなりぎくしゃくしてます。あらためて以前の話を書くと、話の中で時が経過したんだなとか、今更のように思ってしまいます(笑)
七夕って結構好きなんですよ。
でもなんで願い事がかなうってことになったんだろ?とは私も不思議に思っています。
いつごろからなんでしょうね、願い事を短冊にかくって始まったの。不思議。
読んでくださって、ありがとうございまいました!

竹原湊 湖底廃園
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