第15話 剣戟
第14話 獣魂HOME第16話 覚醒


   命令を下す声があった。
 それに気付いたのは、いつ終るともしれなかった眠りから唐突に目覚めた瞬間だ。
 命じてくる何者かの意志のままに、足が動き出そうとしている。駄目だと思った瞬間、身体を自由にする権利が自分にないことを知った。
 ―― 彼女だ。
 意識を持っているのは自分。逆に今の彼女は意識を手放している。にも関わらず、命令を下す声に隷属させられている彼女が、身体を動かす決定権を握っていた。
 ―― 私たちを、誰だと思っているの?
 他人が与えてくる命令などに、諾諾と従っていい立場ではないというのに。
「駄目よ…駄目」
 声だけが自由になる。必死に、震える声で叱咤するのだが、無情にも命令に従って身体は動き始めている。
 その異常に気付いたのだろう。のっそりと立ち上がった気配が、闇の中にあった。そして、鼻面を押し付けられる。
 ―― 私を止めるのを手伝おうとしているの?
 仄暗い闇に包まれた空間から、出て行こうとする自分を留める手伝いを、獣だけがしている。強く在らねば、と獣の行動に勇気を促されて、彼女は凛と顔を上げた。
「駄目。そんな命令を聞いては駄目!! 己を持ちなさい……持ちなさい、マルチナ!!」
 叫ぶ。けれど無情にも足は止まらず、光が僅かに零れてくる方向に正確に歩んでいった。
 陽光がきらめく。おかげで、顔が露になった。―― 瞳、口元、髪、体。寸分たがわぬ、マルチナと同じ顔をした娘。だというのに、周囲に与える雰囲気が完全に異なっている娘。
「とまりなさい、マルチナ!!」
 ―― 止めることは出来なかった。



 はっと顔を上げたアティーファと、怪訝そうな顔で僅かに見上げる仕種をアトゥールがしたのはほぼ同時だった。
「今……マルチナの、声がしたような…」
 慌てて言って、アティーファは周囲に鋭く視線を投げる。
 けれどエイデガルに置いてきたザノスヴィア王女マルチナの姿は見つからず、眉をしかめて彼女は腕を組んだ。そしてふと、アトゥールもひどく難しい表情をしているのに気付く。
「アトゥール? 何かあったのか?」
 もしかしたら、彼もマルチナの気配を感じたのだろうかと、一抹の期待をこめて尋ねる。出血の為に普段より白くなっている顔に僅かに笑みを浮かべ、アトゥールは首を振った。
「一つ…仮説を思いついた。アティーファ、もしかしたら私達四人は、物理的には分断されていないのかもしれない」
「……え?」
 マルチナのことを気付いたわけではなかったが、聞き流すことなど出来ない言葉に、アティーファは首を傾げる。アトゥールは思案する瞳のまま、静かに足を一歩進めた。
「相手は魔力者だ。ということは、尋常ではない事を軽々とやってしまう輩だとも言える。―― なら、人が見ているものを騙すことも、可能であるかもしれない」
「ちょ、ちょっと待て。アトゥール。魔力者っていうのは、私達が見ているこの光景さえ、幻のように作り変えることが出来るっていうのか?」
「可能だった者もいた、という話は過去に聞きます」
 あっさりと言いきった後、どの文献だったかな、とひどく真面目にアトゥールが首を傾げる。
 五公家の人間として生まれてこなければ、喜んで学者になっただろう彼のことだから、出典である文献が何であるのかは重大なことなのだろう。
 けれど架空物語に載る事実を、現実と誤認して口にするような事を彼がするわけないと信用しているアティーファは、文献の出典名は不必要だった。それよりも他が気になる。青年の無事な左手を引いて、思案から現実に引き戻した。
「アトゥール。どうしてその事実を今思い出した?」
「……いや…なんとなく、なんだけどね」
 皇女の質問に、突然ティオス公子の歯切れが悪くなる。
 追求してくれるな、と訴えているのは分かった。けれど悪いが今は無視させてもらう。
「―― 違うだろ? 根拠が殆どない事をアトゥールが進言するわけがない。第一、私がなんとなくで提案された言葉を、考慮するわけにはいかない」
 断言すると、目に見えて困った表情をアトゥールは浮かべる。
「……多分皇女に馬鹿にされることなんだけれどな」
「馬鹿にする、しないは、私が判断することだ。アトゥールが勝手に決めて良いことじゃない」
 追求の手を緩めないアティーファに、強情なところは流石フォイス陛下の娘だと感じ入って、観念して天を見上げる。
「……ようするに、アティーファ。私は今、意見を求められた気がしたんだ」
「……意見? それは当然、私以外の誰かに、ということか?」
「アティーファに求められたのならば、なんの問題もないからね。ここには二人しか居ないというのに、私はアティーファ以外の誰かに意見を求められて、無意識に答えようとした。ご丁寧にも、僅かにこう見上げるような体勢を取ってまでね」
「見上げる体勢で……じゃあ…それって!!」
 眉をひそめたアティーファの双眸が、あることに気付いて大きく見開かれる。
 アトゥールはずば抜けて高い身長は保持していない。平均とされる身長よりは高いのだが、普段並ぶ可能性の高い者たちは皆、のきなみ彼よりも背が高かった。
 そんな環境の中で、奇妙な程プライドが高い公家の人間であるアトゥールが、素直に見上げる体勢を取って話をする相手は二人しかいない。
 一人がレキス公国に居合わせる可能性のない、アティーファの父フォイスである。そしてもう一人が。
「カチェイか!!」
 弾かれたように顔を上げて、アティーファは声を上げた。
「多分ね。無意識に意見を求め、それに答えようとするならば、相手はカチェイ以外には余り考えられない。だからこそ、私は見上げるようにして振り向いたのだと思う」
 ―― カチェイが意見を求めた。ならば、それは一体どんな意見だったのか?
 それが気になる。
 魔力の干渉下にいる今は、リーレンを伴っているカチェイの方が状況を判断する材料を多く持っているはずだ。自分達が気付いていない不審を目撃した可能性は高い。
 ―― 想定される事態……魔力者と、エイデガル皇国。そして…我々、五公家の人間……。
 思案はするのだが、どうも上手く答えが出ない。
 カチェイと出会い、そしてお互いを信用するようになってからは、問題に遭遇し発生し得る状態を想定する際には、即座にお互いが持つ情報と見解をぶつけてきた。―― だからこそ、偏った見方にならず、柔軟性をもつ答えを導くことが出来ていたのかもしれない。
 それに、思考を妨げる原因が実はもう一つある。
 アティーファにいらぬ心配を掛けたくない為に言っていないが、肩口に負った傷口からの出血が止まらない。おかげで血液が足りず、意識を持続して集中させるのは難しかった。
 普段の状態ならば、与えられている物事だけでもそれなりのそれなりの判断を下すことが出来ていただろうにと、はがゆさにアトゥールは眉をひそめる。
 少女は珍しく表情をしている彼に、翠色の眼差しを向けた。
「でも、結局アトゥールが見上げた先にはカチェイはいなかったのだろう? 振り向く前までは、確かに気配を感じ取って居たというのに」
 考えながら、事実を並び立ててみる。
 分断された後、四人ともレキス公国を目指しているだろうことは間違いない。そして道は一本道で、同じ通路を辿っている可能性の方が高いのだ。―― 気配を感じたアトゥールと、誰もいない現実。
 もし、目に見える現実こそが偽りならば?
 四人は同じ場所に居る。けれど、知覚することが出来ない。
「…確かに、その状況に置かれている可能性は高いかもしれない……だとしたら、凄まじい相手、っていうことになる…」
 空間閉鎖というのは、よほどの能力を持っていなければ不可能だ。それを、唯一敵として認識している少年魔力者―― エアルローダがやるのだろうか?
 屍を操り、空間を閉鎖し、一行を手玉に取るほどの事を。
 戦慄を感じて、アティーファは身震いをした。
「―― 多分、アトゥールの言葉が正しいはずだ。ならばどうすれば、この空間遮断を破り、名実ともに私たちは合流できるのか…」
「君は本当に賢いよね。だから楽しくて仕方ないよ」
 唐突に、耳元で囁くように吹き込まれた声。
 はっと目を見張り、思わずアティーファは身を守ろうとする本能に近い仕種で後退した。同時に抱えていた紅蓮をアトゥールにと放り、自らは帯剣している覇煌姫の柄に手をそえ、突如姿を見せた相手と対峙しようとする。
 けれどアティーファよりも早く、紅蓮を手にしたアトゥールが滑るように前に進み、彼女を背後に庇った。
「アトゥール!」
「危険な時は、兄の背に隠れてるほうがいいってものだよ」
 アトゥールの怪我を懸念する少女の心配を、無用だと態度で否定してのけた後、両手で握った剣を構える。
 誰も居なかったはずの空間が、軋んでいた。その軋みを彩るかのように、青褪めた黒髪がゆるやかに揺れる。
「お前はっ!!」
 鋭く誰何するアティーファの声と、迅速な反応をみせた二人に敬意でも表するつもりなのか、白々しい仕種で拍手をした。
「お前じゃないよ、アティーファ。僕はエアルローダと僕は名乗ったろう?」
 声の音質には少年らしい脆さがあるというのに、響きには異様な自信が溢れている。それがひどく胸を逆なでして、アトゥールの背後に庇われたまま、アティーファは眦を釣り上げた。
「貴様に名前を呼ば捨てられる筋合いはない!」
「高貴な君が口にすれば、傲慢なはずの言葉さえ、美しいものに聞こえるんだね。それが僕には、ひどく不思議だよ」
 くすりと、唇だけで笑って、エアルローダは一歩進む。
「そうそう。ちゃんとした挨拶がまだだったよ。こんにちは、アティーファ皇女、アトゥール公子。二人とも、予想より元気そうで良かった。予定では、もうアトゥールの腕は身体を離れているはずだったんだよ。―― あの光が邪魔させしなければ、確実だった。だから、それがひどく残念だよ」
「私は残念ではないね」
 全く動揺などしてみせずに、アトゥールが答える。ふふ、とエアルローダが笑った。
「勿論さ。腕をもがれて楽しいと思うような輩は、きっと変態だよ。変態を痛めつけても、面白くもなんともない」
 嘲った後、エアルローダは不意に眼光を鋭くする。
「君が予想通り、一番邪魔ってことはもう分かったよ。アトゥール・カルディ・ティオス。だからね、遠慮なく君を先に消させて貰う事にするよ」
 言葉と同時に、僅かにエアルローダの指が持ち上がる。それを正確に見て取って、アトゥールは即座に背後の少女を突き飛ばし叫んだ。
「アティーファ、下がれっ!」
 魔道が動き時には、微かだが空気が震える。
 気配に敏い者ならば、それを感じ取ることは可能だった。事実アトゥールは気付いて、重い大剣紅蓮を血に濡れる右手も酷使して持ち上げ、前に差し出した。
「アトゥール!?」
 突き飛ばされて体勢を崩したアティーファは、慌てて叫びながら、握っていた覇煌姫の柄に力を込めていた。驚愕している場合ではない、と咄嗟に判断したのだ。
 なにせアトゥールが自分を突き飛ばすということは、広範囲に及ぶ危険が訪れる事を恐らく意味する。
 左手を滑らせ大地に手を付き、倒れ込むのを未然に防ぐとアティーファは振り返った。
 白と青があった。
 状況を把握しようとした彼女の瞳を、塗りつぶす閃光の色。
「な…んだっ!?」
 光が強すぎるあまりに、映像として獲られることが可能なものが極端に少ない。けれど光にかすむ中、白い閃光を放つのがエアルローダであることは確認した。確かに、最初攻撃をうけた時も、彼の放つ魔力は純白だったので間違いはないだろう。
 ならば、この青い閃光はなんだ?
 魔力によって生じた光のような気がする。けれど魔力者はエアルローダ一人で、彼が放っているのは白い閃光だ。
『我がエイデガル皇国と、五公家が持つ秘密を。おそらく今回の事件で知ることになるだろうと…』
 唐突に蘇ってきた父親の声。―― 秘密…?。
 魔力者を引き受けることが出来たのはエイデガルだけ。建国からすでに、魔力に関係している皇国と五公国。そして各家に伝わる獣魂の宝珠。
「我がエイデガルの皇族たちは…」
 何故魔力者に寛大でいられるのか? 魔力者を敵にしながら建国戦争時代勝利を手中に出来たのか? 今回の異変に魔力者が絡んでいると、確信にみちて言い切った父王。なにかの覚悟をしていた、カチェイとアトゥール。―― そして、不意をつかれたはずの攻撃を、突如防いだ翠の閃光。
 思考が巡回をはじめてしまう。けれど、なんらかの答えを見付けたような予感に、ゆっくりとアティーファは自分自身の手を持ち上げて見詰めた。
 ―― 翠色の閃光が生まれた場所。それは、どこだった?
「まさか…そんな…」
 声が震える。まるで足場の全てが壊れてしまったような感覚に、真っ青になった。―― とんでもない結果をもたらす、謎解きに。
 色々と、考えて生きてきたと思っていた。
 何も知らないでいるのは罪悪だと思っていた。
 国を護る役目があるから。だから、それが出来るようになりたいと、思っていた。なのに。
「謎……その、答えに秘められているもの……。それは…アトゥール!」
 助けを求めたかった訳ではないはずなのに、張り上げた声は悲鳴に近い。けれどこの瞬間にも、凄まじい攻防が目の前では展開されていた。凌ぎを削るようにぶつかり合っていた閃光が弾け、突如暴風が吹き荒れる。
 ―― 一人、悩んでいる場合ではなかった。
 動揺してしまった自分自身が悔しくて、アティーファは唇を噛む。暴風の為に発生した土煙の先で、剣激の音が高く響いているのを確かに聞いた。
 エアルローダとアトゥールが、剣による戦闘に突入したのだ。
「あわない武器で戦うことを選択するなんて、随分と酔狂な選択を下すものだよ」
「―― 私の勝手だ」
 嘲笑してきながらも、踏み込んできたエアルローダの突きを一歩性ってアトゥールは躱し、素早く大剣紅蓮を両手で横に薙いだ。それを、今度はエアルローダが軽やかにかわす。
 ―― 強い。
 ぎりと歯を噛みしめる。
 自信を持つのも確かに分かる。想像以上に、エアルローダは剣術もかなりの腕前を誇っていたのだ。
 本来、アトゥールは唯一カチェイに匹敵するほどの剣技を持っているのだ。ゆえに、エアルローダに苦戦することはなかったはずなのだが、今は状態が違う。出血多量では、切れが薄れるのは当然だった。
 そして両手で何とか操ることが出来る大剣紅蓮は、アトゥールには重過ぎる。
 だが、動揺から立ち直り、緊張に支配された瞳で戦況を見守るしかないアティーファの為に、アトゥールは余裕の表情だけは崩そうとしなかった。彼女を必要以上に焦らせ、戦闘に飛び込んでこられた方が今は困るのだ。
 間合いの計りにくい使いなれぬ紅蓮で、誤って傷つけてしまう可能性を捨てることは出来ない。
 瞬間、考えた隙を見抜いたかのように鋭く間合いを踏み込んできたエアルローダの切っ先を、紅蓮を盾のように使ってアトゥールは弾く。だが、あまりの重量に空中に浮かし続ける事が出来ず、大剣紅蓮は大地に刺さり込んでしまった。
 瞬間、右腕におった傷が悲鳴を上げる。アトゥールは、痛みを訴えている場合ではないと傷口に対して怒りを覚えていた。
「余裕を見せられるのは、楽しくないんだけどな」
 くすりと、接近した距離を利用してエアルローダが囁く。
 アトゥールは血の気を失っていながらも、苦痛は微塵も見せずに、静かに笑った。
「私は他人を楽しませるなどごめんだね」
 言い放つと同時に右手の負荷を無視し、大地に刺さった紅蓮を抜いて、後方に下がる。
 ―― 息が上がってきている。体の末端が、異様に冷たい。
 戦闘可能な時間は長くない。そう冷静に判断を下し、一瞬アティーファを心配して視線を投げる。こちらを見ているだろうと思っていたのだが、少女は驚愕の瞳で別の方向を睨みつけていた。
 何かあったのかと、懸念してしまう。それが完全な隙を生んでしまって、すぐ目前に魔力による閃光が迫っていた。
「……っ!」
 剣だけで戦い続けるわけがないと分かっていたのに、失念していた。魔剣である紅蓮を構えたまま避けることが出来ず、取り落としてしまう。
 残像のように揺れた長い髪が、降りてきた剣によって幾本かがはらりと落ちる。しかもすぐに続く第二撃に、アトゥールは避けきれない事実を知って眉を潜めた。
 普段から常に帯刀している細剣を使えば、弾くことは出来る。
 けれど、魔力者が振るう剣には、魔力が附加されている場合が多いのだ。今までは、魔剣である大剣紅蓮を使用していた為に、魔力の影響を受けずにいた。だが、普通の剣では、剣を弾く事は出来ても、魔力伝達を防げない。
「……くっ!」
 けれど悩む暇はなかった。
 このままでは、止めを刺されて終りになるのだ。ならば、魔力伝達が来ることは分かっていても、細剣を使用するしかない。
 高い金属音を響かせて、アトゥールはエアルローダの剣を弾く。瞬間、内臓を抉るような激痛が体内に入り込んで、さしものアトゥールも苦痛の表情を浮かべた。
 それでもなお、視線は取り落としてきた剣の位置を把握するべく動くと共に、エアルローダの攻撃を剣を使わずに避ける為に、剣筋を見つめていた。
 ―― 似ている。
 何故か、咄嗟に思った。
 同時に、アトゥールは女性のように整った眼差しを見開く。
 何かが最初からひっかかっていた。考えても、考えても、まとまらない思考の中―― それが唐突に形を描く。
「まさか…その太刀筋…そして」
 ―― エアルローダ・レシリス。
 名前を告げた彼の声がまざまざと蘇ってくる。
「やっぱり気付いたんだ。君は、一つの事実から全ての真実を導き出す。だから、邪魔なんだよ」
 底冷えする声で少年が言い切った。
 アトゥールは紅蓮まであと数歩というところまで下がりながらも、血液不足で発生する寒さ以上のものに、身震いをする。
 ―― この事態は。
 想像している以上に、エイデガルという根本を支える全てを揺さぶるほどの、事態をはらんでいるのだ。
 エイデガル第一皇位継承権。それを示すものが、レシリスであり、レシルである。
「…レシリスは……苗字では、ないな…本当はまだ…」
 乱れる息を必死に整えながら、アトゥールが言う。エアルローダは唇を吊り上げた。
「やっぱりね。君を最初に排除しようと思った。僕の判断は正しい。―― それを簡単に理解できてしまう人間は、正直、邪魔なんだよ」
 死を宣告するように少年が言う。
 次の瞬間に全てが決まると判断し、アトゥールは冷たくなりきった手を首元にそえて、血液を吸いすぎたが為に重くなり、動きを阻害する長衣を脱ぎ捨てるべく力をこめていた。


第15話 剣戟
第14話 獣魂HOME第16話 覚醒